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神戸地方裁判所 昭和57年(ワ)20号 判決 1983年1月31日

原告

田畑政一

ほか一名

被告

矢野静太郎

主文

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

1  被告らは各自原告らに対し、それぞれ金二、〇五九万一、四八三円およびうち金二、〇〇九万一、四八三円に対する昭和五六年六月六日から、うち金五〇万円に対する昭和五八年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告らの二男田畑英男(以下、亡英男という。)は左記交通事故により頭蓋骨骨折の傷害を受け、同日午後五時三〇分由井外科病院で死亡した。

(1) 日時 昭和五六年六月五日午後四時五五分ころ

(2) 場所 神戸市北区山田町下谷上字中一里山五番地先路上

(3) 加害車両 普通貨物自動車(泉四五さ九二五九)

保有者 被告矢野孝太郎(以下、被告孝太郎という。)

運転者 被告矢野静太郎(以下、被告静太郎という。)

(4) 被害車両 自動二輪車(一神戸た七三〇八)

運転者 亡英男

(5) 事故態様 本件事故現場は、南から北にS字型にカーブした道路であるが、亡英男が被害車両を運転して右道路を南から北に向つて進行中、折柄、右道路を北から南に向つて進行中の被告静太郎運転の加害車両に正面から衝突した。

2  責任原因

(1) 被告静太郎は、加害車両を運転して進行中、前方を注意しなかつた過失があるから、民法七〇九条所定の責任がある。

(2) 被告孝太郎は、加害車両を保有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条所定の責任がある。

3  損害

(1) 逸失利益 金四、六八八万六、一五九円

亡英男は昭和三六年六月一一日生れの健康な男子であつて、本件事故当時、藤原運輸株式会社に作業員として働き、年収金二八一万〇、四九三円を得ていたから、就労可能年数を満六七歳まで四七年間とし、生活費控除を三割として、亡英男の逸失利益をホフマン係数により算出すると金四、六八八万六、一五九円となる。

(2) 治療費 金五万六、八六〇円

(3) 相続

原告らは亡英男の父母であつて、その相続分は各二分の一である。

(4) 原告らの慰藉料 各金五〇〇万円

(5) 原告らの負担した葬儀費用 各金二三万〇、七五〇円

(6) 損害の填補

原告らは各金二、八七〇万二、二五九円の損害賠償債権を有するところ、各金八六一万五、七七六円の填補を受けた。

(7) 弁護士費用 各金五〇万円

4  結論

よつて、原告らは被告らに対し、各金二、〇五九万一、四八三円と、うち金二、〇〇九万一、四八三円に対する昭和五六年六月六日から、うち金五〇万円に対する昭和五八年二月一日から、各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、(1)ないし(4)は認めるが(5)は否認する。

2  同2のうち、(1)は否認し、(2)は認める。

3  同3のうち、(3)、(6)は認め、(1)、(2)、(4)、(5)、(7)は争う。

三  抗弁

(一)  被告孝太郎の自賠法三条但し書の免責の抗弁

1 本件事故は亡英男の一方的過失によつて惹起したものであつて、被告静太郎には全く過失はない。すなわち、亡英男は、本件事故現場を、被害車両を運転して、南から北に向つて高速で進行し、S字カーブを曲り損ねて自車線上で斜行転倒し、その衝激で対向車線に投げ出され、折柄、本件事故現場を北から南に向つて走行していた被告静太郎運転の加害車両に飛び込んできたものであつて、同被告には、これを予見し、回避することは不可能であつたのであるから、本件事故は、亡英男の一方的過失によつて惹起したもので、同被告には全く過失はない。

2 本件事故は、加害車両の構造上の欠陥、機能上の障害の有無とは関係がない。

(二)  過失相殺の抗弁

仮に被告静太郎に過失があるとしても本件事故は、亡英男の過失によるところが大であるから、大幅な過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)1は否認する。本件事故は、被告静太郎が前方の注視を十分していれば、未然に防止し得たのにかかわらず、同被告が前方の注視を欠いたまま、しかも時速六〇キロメートル(速度制限時速四〇キロメートル)で進行した過失がある。

(二)  抗弁(二)は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の(1)ないし(4)は当事者間に争いがない。そして、争いのない右事実に成立に争いのない甲第一、二号証、第七号証、乙第一号証ないし第三号証、証人和田末治の証言および被告静太郎本人尋問の結果によれば次の事実を認めることができる。すなわち、本件事故現場は、S字型にカーブを描いて南北に通ずる道路であつて、センターラインによつて、それぞれ幅員四・五メートルの北行車線と南行車線に区分され、アスフアルトで路面が舗装され、南から北にやや上り勾配となつているが、見とおしは良好である。被告静太郎は、加害車両を運転して、時速約四〇キロメートルないし四五キロメートル(速度制限時速四〇キロメートル)で南行車線を北から南に向つて進行し、東側にカーブを描く道路部分にさしかかつたところ、折柄、北行車線の東側にカーブを描く道路部分を南から北に向つて車体を左斜めにして、かなりの高速で進行してくる被害車両を右前方約四七・七メートルの位置に認めたが、特に異常を認めなかつたので、自車の進路方向を注視しながら同一速度で南進しているうち、約一二・四メートル南進した地点で、突然、被害車両から振り落されて自車進行の直前に飛び込んでくる亡英男を右前方約九メートルに発見し、危険を感じて急ブレーキをかけたが、約五・二メートル南進した地点で、亡英男が自車左前部に飛び込んで衝突した。加害車両は左前輪付近で亡英男をひきづるようにして南行車線の約一四・五メートル左前方に進行した地点で停止した。亡英男は、被害車両を運転して、時速約六〇キロメートル(速度制限四〇キロメートル)で北行車線を南から北に向けて進行し、車体を左斜めにして東側にカーブを描く道路部分にさしかかつたが、そのままの状態で北進を続けたため、車体が一層左傾し、左サイドスタンドを路面に擦過させつつ約一一・七メートル北進した地点で転倒し、さらにそのままの状態で北行車線の路面を北に滑走し、折柄、南行車線を南進してくる加害車両との距離約九メートルの地点で亡英男は被害車両から振り落されて、南行車線に飛び込み、加害車両の左前部に衝突した。被害車両は転倒した地点から北方約一七・五メートルのセンターライン付近にまで路面を滑走して停止した。右認定に反する証人川上晴久の証言は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二  右認定事実からすると、本件事故は、亡英男が被害車両を運転して、時速約六〇キロメートルの高速で北行車線を南から北に向つて進行し、車体を左斜めにして東側にカーブを描く道路部分にさしかかつたが、そのままの状態で北進を続けたため、車体を一層左傾させ、左サイドスタンドを路面に擦過させつつ進行して転倒し、被害車両から振り落されて、折柄、南行車線を南進中の加害車両に飛び込んで衝突した結果、惹起させたものであるが、被告静太郎が加害車両を運転し、南行車線を北から南に向つて進行し、東側にカーブを描く道路部分にさしかかつた際、右前方約四七・七メートルの北行車線上に車体を左斜めにして、かなりの高速で北進してくる被害車両を認めた時点では、特に異常を認めなかつたのであつて、その後、被害車両が左サイドスタンドを路面に擦過させつつ進行して転倒し、亡英男が被害車両から振り落されて加害車両の進行直前に飛び込んでくるのを被告静太郎が発見するまでは、一、二秒の瞬時の出来事であるから、被告静太郎が右前方約四七・七メートルの地点に被害車両を認めた際に、かかる事態の発生が予見し得たのであれば格別、そうではない以上、加害車両を運転していた被告静太郎が、その後の反対車線の被害車両の瞬時の出来事に気づかなかつたことを非難し、亡英男が被害車両から振り落されて自車進行直前に飛び込んでくるのを回避するため適切な措置をとるべきであつたとするのは、交通関与者の能力を超えたものを要求するものであつて、当を得ないと考える。すなわち、本件事故は、亡英男の過失によるものであつて、被告静太郎には過失はない。

三  被告孝太郎が加害車両を保有し、当時、運行の用に供していたことは当事者間に争いがないところ、本件事故は、亡英男の過失によつて惹起したものであつて、被告静太郎に過失がなく、本件事故が加害車両の構造上の欠陥、機能上の障害の有無と関係がないことは原告らの明らかに争わないところであつて、これを自白したものとみなすべきであるから、被告孝太郎は自賠法三条但し書により同法三条の責任を免れるべきである。

四  よつて、原告らの本訴各請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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